公開:
最終更新:
Apache vs Caddy
目次
Caddy Webサーバーを推したい
はじめに
現行のApacheベースのシステム運用に敬意を払いつつ、サーバーインフラの持続的進化を目指し、Caddyの導入を提案します。 本提案は現行システムの全面置き換えではなく、段階的導入による技術的負債の軽減を目的としています。
Caddy採用の戦略的優位性
私がCaddyの推す理由
- 圧倒的な設定の簡潔性: Apacheの設定ファイルはXMLベースで記述量が多く、些細な変更にも手間がかかります。一方、CaddyやNginxはドメインベースのルーティングが可能で、Caddyの
Caddyfile
は特に直感的です。例えば、リバースプロキシ設定も数行で完了します 12。
example.com {
reverse_proxy localhost:8080 # Localhost:8080へ通信を向ける
}
http://example.net{
reverse_proxy localhost:8080 # 明示的 HTTP通信
}
- SSL/TLS設定の劇的な簡略化: CaddyはHTTPSをデフォルトとし、Let's Encryptを利用したSSL証明書の自動取得・更新機能を内蔵しています1。これにより、最短数分でHTTPS化が完了し、証明書管理の手間から解放されます。
- モダンプロトコルの標準サポート: WebSocketやHTTP/3といった新しい技術への対応がApacheに比べて容易です。Apacheではストリーム処理に特別な設定やモジュールが必要となる場合がありますが、Caddyはこれらをよりネイティブに扱えます。
- 柔軟なファイル配信機能: Caddyはファイル一覧を
Content-Type
ヘッダーをつけて送ることで、JSON形式で出力する機能を持ち、PWA(Progressive Web Apps)におけるオフライン対応のためのプリフェッチなどに活用できます。 - 堅牢なセキュリティ実績: Caddyはセキュリティを重視して設計されており、過去の脆弱性報告(CVE)は極めて少ないです。2015年6月2日のバージョン0.7.1におけるタイミング攻撃の1件のみという実績は、他の主要HTTPサーバーと比較しても突出しています3。
- 実証された安定性: Apacheほどの長い歴史はありませんが、Caddyは2015年の初期リリースから約10年、現行のメジャーバージョン2.0のリリースからも5年が経過しています。バージョン2.0以降、CVEが報告されていない点は、その安定性と安全性の高さを物語っています。
- IPv6ネイティブサポート: 将来的なネットワーク環境の変化にもスムーズに対応可能です。
- 豊富な標準機能: FastCGIプロキシ、Markdownレンダリング、Basic認証、URLリライト、リダイレクトなど、多くの実用的な機能が追加設定なしで利用可能です。
- 非root実行の可能性: 1024番以下のポートを使用しない限り、Caddy自体は特権ユーザー権限を必要とせず、単独で安全に実行できます。
パフォーマンスとリソース効率に関する考察
- 「Apacheはパフォーマンスに優れないものの安定しており、新しいものが常に優れているわけではない」
- 「リクエストが多くない環境で贅沢なリソースを使うべきではない」
といった懸念があるかと存じます。これらの点について、直近のベンチマーク結果4を交えながらご説明します。
リソース使用率について
まず、「リクエストが少ない場合にCaddyがApacheよりリソースを過剰に消費するのではないか」という点ですが、低負荷時におけるCaddyのCPU使用率やメモリ使用量がApacheと比較して極端に悪化することはありません。
- CPU・メモリ効率: Lighttpdが最も効率的で、次いでNginx、OpenLiteSpeedと続きます。Caddyはこれらに次ぐ位置ですが、Apacheよりは少ないリソース(CPU使用率72%、メモリ780MB)で動作します。Apacheは最も多くのリソース(CPU使用率75%、メモリ820MB)を消費する結果でした4。CaddyはGo言語のガベージコレクタが効率的に動作し、メモリ使用量は比較的安定しています5。Apacheとのメモリ使用量の差は、極端にリソースが制約される環境でなければ、大きな問題とはならない範囲です5。
各種負荷テストにおけるパフォーマンス
2025年2月に行われた包括的なWebサーバーベンチマークテスト4によると、以下の傾向が見られました。
テスト内容 | Apacheの傾向 | Caddyの傾向 | 備考(他の主要サーバー) |
---|---|---|---|
静的HTMLファイル配信 (ab) | 7508 RPS, 26.5msレイテンシ | 7532 RPS, 26.2msレイテンシ | Lighttpd (8645 RPS)が最速。Nginx (7589 RPS)とCaddyは同等4。 |
大容量ファイル転送 (ab, 10MB) | 103.83 MB/sec, 97.4msレイテンシ | 116.85 MB/sec, 85.1msレイテンシ | Nginx (123.26 MB/sec)が最速。Caddyは良好な性能4。 |
高同時接続 (wrk, 500接続) | 19,865 RPS, 82.4msレイテンシ | 24,532 RPS, 70.1msレイテンシ | Lighttpd (28,308 RPS)が最速。CaddyはNginxに次ぐ性能4。 |
バーストトラフィック (wrk) | 199.80 RPS, 180.2msレイテンシ (健闘) | 200.67 RPS, 178.1msレイテンシ | Nginx (202.19 RPS)が最速。Caddyもほぼ同等4。 |
総合ランキング | 6位 (高負荷時の性能低下が影響) | 5位 (使いやすさと自動HTTPSが強み、バランスの取れた性能) | 1位 Nginx, 2位 OpenLiteSpeed4。 |
この結果から、Caddyは特定のテストで突出した性能を示すわけではありませんが、多くのシナリオでApacheを上回るか同等の性能を発揮し、特に高負荷時や大容量ファイルの扱いで差が見られます。Apacheは高同時接続下で性能が低下する傾向が顕著です4。
「リクエストが少ないのに贅沢なリソースを使うべきではない」という反論に対して
前述の通り、Caddyのリソース消費はApacheと比較して同等か、むしろ効率が良い場面もあります4。低負荷時にCaddyが「贅沢なリソース」を使うという懸念は必ずしも当てはまりません。
それ以上に、Caddyがもたらす運用効率の大幅な向上(設定の簡潔さ、自動HTTPS化など)は、わずかなリソース消費の差を補って余りあるメリットと考えます。特に、セキュリティ維持の観点では、証明書管理の自動化はヒューマンエラーを減らし、常に最新のセキュリティ状態を保つ上で非常に重要です。
レガシーシステムとの共存戦略:ハイブリッド構成の提案
CGIなど既存のシステムを無理にCaddyへ移行する必要はありません。CaddyをフロントエンドのWebサーバー兼リバースプロキシとして導入し、 特定のパスやサブドメインへのアクセスのみを、これまで通りApacheへ転送するハイブリッド構成も簡単です。
なぜならCaddyfileはそのような多少複雑な設定すら少量の構成ファイルで記述可能です。 以下は、Caddyが主たるHTTPサーバとなり互換性を維持するコードの一例です。 もちろんApacheが通信を最初に待ち受けてリバースプロキシの転送先をCaddyにすることも簡単です。
# Caddyfile
# 新しいサービスや静的コンテンツはCaddyで直接配信
example.com {
root * /var/www/new_site
file_server
php_fastcgi unix//run/php/php-fpm.sock # PHPもCaddyで
}
# CGIが稼働するパスはApacheへリバースプロキシ
example.com/cgi-bin/* {
reverse_proxy localhost:8080 # Apacheは8080ポートで待機
}
# ゼミの旧システム用サブドメインもApacheへ
legacy.example.com {
reverse_proxy localhost:8080
}
この構成により、以下のメリットが得られます。
- Caddyの恩恵を享受: 自動HTTPS化、HTTP/3対応、設定の容易さといったCaddyのメリットを享受できます。
- 既存システムの維持: Apacheで稼働するCGIシステムはそのまま利用を継続でき、移行リスクを最小限に抑えられます。
- 段階的な移行: 将来的には、Apacheで稼働しているシステムも、状況を見ながらCaddyネイティブな仕組み(FastCGIなど)に置き換えていくことが可能です。
Caddyは、設定の容易さ、自動HTTPS機能、そして堅牢なセキュリティ実績において、Apacheに対して明確な優位性を持っています1。パフォーマンスに関しても、多くの実用的なシナリオでApacheを上回るか同等の結果を示しており、リソース効率もApacheより優れています4。
Citations
Footnotes
-
https://xtom.com/blog/comparing-apache-nginx-litespeed-openlitespeed-and-caddy/ ↩ ↩2 ↩3
-
https://linuxconfig.org/ultimate-web-server-benchmark-apache-nginx-litespeed-openlitespeed-caddy-lighttpd-compared ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11
-
https://www.net7.be/blog/article/caddy_vs_nginx_vs_apache.html ↩ ↩2